6 種とは何か
「種は進化の基本的な単位である」
「進化は化石による古生物学的な種でしめされる」
しかし、古生物学と現生の生物学との種を特定する分析の方法、その捉え方はまったく違います。そこで次に、進化の基礎的単位となる種の特徴の捉え方の違いをみてみます。これも時間のスケールを入れると違った面が現れることが分かると思います。
古生物学的種(化石種)
系統発生学は進化学であり実際の系統発生は化石試料に依存するために残りやすい組織、脊椎動物では主に硬組織の形態が中心となります。軟組織(筋肉や神経、血管など)はほとんどありません。いま盛んに研究されている化石の生化学や遺伝学の情報は、せいぜい1万年以内です(生命の起源のアミノ酸の研究は古い時代のものですが、アミノ酸と体の構造では細胞ましてや体の復元までにはまさに遠大な道のりが必要です)、これはDNAが壊れやすい(分断されやすい)ためで遺伝子を復元するのは非常に難しいのです。
それゆえ化石の種は形だけの世界といえます。化石化を考慮して慎重に種を決めたとしても、極端な場合には1個の歯、1個の骨で種がきまることがあります。古生化学が開拓され、先カンブリアや地球外の有機質の研究がこの数十年で進み将来への展望を与えられた功績は大きいとはいえ、現時点では以上のことは基本的に変わっていません。このようなことは生物学ではありえないことです。
生物学的な種
化石と現生種の対比は化石が硬い組織の形であるため、比較解剖学ではマクロの形(肉眼形態)からミクロの形(組織学、細胞学)、発生学の結果を含んでいますが、実際に古生物と対比できるのはかたい組織の形のみです。ですから比較解剖学=現生の生物の各種の比較は現在時間での結果の比較となり、系統発生学的なものではありません。
生物の種の区分は、固い組織以外の形質で決まることがほとんどで、科学技術が進むほどその傾向が強く現れます。たとえば遺伝子(DNA)によって先祖や類縁関係を推定します。これらは系統発生を推定しうる有力な武器ともなっていますが、そこから間接的に生物の硬い組織を推定し古生物の硬い組織の形態と対比し、さらに古生物に反映させるという二重三重の推定を行います。無論その推定は出来得る限りの手段を駆逐してなされるので漸近線的に真理に近づきますが、しかし推定の域を出ることはありません。推定は確定ではなく何万分の一の意外性があるということもあり、それは勢い違う可能性もあるということなのです。
この意味で現生の生物を基盤とした系統発生ないし系統分類といわれているのは、厳密には現在(時間の概念のない)の生物を基盤にした区分、分類と言うことができます。いっぽう、化石による分類は、古生物の区分柔らかい組織あるいは生殖(あるいは遺伝子)による子孫の形成などが立証できないという不完全さがあるとはいえ、歴史、系統発生、進化を示す事実なのです。つまり進化は時間の概念が入っているのです。この違いは常に念頭に置くべき大前提です。要は、時間の概念のまったく違う古生物や化石資試料の種と生物の種とを区別して混同しないで議論するという原点に返るべきだ、という点に尽きます。
専門については1専門性と哲学で述べているので改めて論じる必要はないのですが、念のため触れます。化石と生物は混同して議論してはならないし、もっともっと区別して進化を議論するべきだ、というのが私の主張です。どうしても人間は自己中心の目、視点があります。これは他人の状況を自分の感覚で判断することなどでよく経験すると思います。研究者も自分の研究対象の範囲と視点で他の研究成果を判断しやすいのです。
さらに、たとえば大きさを考える場合も、自分の体の大きさが基準となりやすい傾向があります。ですからミクロやウルトラミクロと言われている細胞の中や、細胞を構成している分子などの現象は自分の身の丈で即断しやすいのです。そこから錯覚が生まれるのです。
これがあるため、進化の理論を学んだり、進化の解説を読んだりする場合には、それを書いた方の専門性に注意を払っていきたいものです。